感想1・極意というものは知ってしまえば簡単なもの

日本語は神である・読者感想文  若い頃に工業英語を共に学び、今も技術翻訳の世界で精励しておられる「学友」下岡清二氏から、本書の感想と共に序文の英訳が送られてきました。読んでみますと、なかなかの労作です。これを私一人で楽しむのは惜しい気がしました。序文英訳も別に掲載します。→序文英訳(下岡清二)
 感想文中に『ありがとう日本アップダウン構造』とあるのは、『日本語は神である』の旧版書名です。旧版書名に対して翻訳家らしい面白い分析をして戴きました。新版『日本語は神である』の書名分析も戴けると有難いのですが・・・。下岡さん、お考えいただけませんか?(昌原容成)

「日本語論」というよりは壮大な「日本論」(下岡清二)


極意というものは知ってしまえば簡単なもの

 昌原容成 様
 Time flies, doesn’t it?  お元気ですか。私はつい先日までスギ花粉のいじめに会っていました。花粉症が発症したのは数年前ですが、今年の症状は最悪でした。目はショボショボ、鼻はズルズル、喉はイガイガ、ときにはハックショーンといった具合です。 しかたなく、通勤電車でも職場内でも常時マスクをつけていました。自分の生涯を振り返っても、マスクを着用した記憶はほとんどないのですが。(2月から横浜市内の翻訳会社に毎日通勤しています。短期契約で、先方の要請に従って随時契約更新です。)

  さて、通信ソフトの履歴で調べてみると、『ありがとう日本アップダウン構造』を購入したのが1月15日となっています。

 このとき川崎さんに宛てたメールには、<機会があれば「感想もどき」を書き留めてみたい>とあるのに気づきました。

  あれから3ヶ月が経過したわけですが、最初の1ヶ月くらいで全体を通読してみました。たいへん意外でした。

 私は「日本語論」の先入観で読み始めたのですが、そうではなかったようです。著者の意図は「日本論」のようで、しかも壮大な日本論でした。

  実は、『ありがとう日本アップダウン構造』の書名を初めて見たとき、不思議な書名だと思いました。

 以下は、当初の自問自答です。

* 「日本」は「日本語」の誤りではないのか。書名の意味は「ありがとう、日本語のアップダウン構造よ」あるいは「日本語のアップダウン構造よ、ありがとう」だろうか。たとえば、「夜霧よ、今夜もありがとう」のように。

* 少し読み進めると、「ありがとう」という表現が典型的な「日本語のアップダウン構造」を内包しているらしいと気づいた。だとすれば、書名の意味は「<ありがとう>表現に見られる日本語のアップダウン構造」だったのか。

* さらに読み進めると、著者の関心は「日本語」だけでなく「日本」全般にあるらしいと気づいた。だとすれば、書名の意味は「<ありがとう>表現に見られる日本のアップダウン構造」だったのか。

* 読後の感想。書名の意味は、「<ありがとう>表現は、日本的なアップダウン構造」と言い換えても差し支えないのか。だが、「ありがとう、日本アップダウン構造よ」の気持ちも反映しているような気がしてきた。 龍の片鱗や逆鱗などを使った比喩に少し抵抗を感じていましたが、読み終わってみると、目から鱗が落ちる思いでした。さすが「目のつけどころがシャープ」だとつぶやいた次第です。

 先ほど「書名」について少し触れましたが、もし『ありがとう日本アップダウン構造』を英訳すればどうなるのだろうか、と自問していました。このあたりは職業病でしょうか。下記が私の試訳です。(a)と(b)は原文の具体的な意味を反映しながら、(c)と(d)は原文の字面をなるべく尊重することを前提にしながら英訳してみました。

  (a) “Thank You” Forming Japan’s Up-Down Structure

  (b) ‘Arigato (Thank You)’ Demonstrating Japan’s Up-Down Structure

  (c) Thank You: Japan’s Up-Down Structure

  (d) Thank You: Japanese Up-Down Structure

 また、翻訳のトレーニングを兼ねて、同書の「序文」の英訳にトライしてみました。(1)原文の意味をできるだけ正確に反映すること、そして(2)英文としてあまり不自然にならないようにすることを心がけましたが、どの程度成功したものやら。添付ファイルでお送りします。ご笑覧ください。

  追記。最近読んだ本にこんなくだりがありました。

 「全てにおいて、極意というものは、知ってしまえば簡単なものです。ただ普通、誰も気づかないのです。」

 思わず貴著を連想しました。「アップダウン構造」と「ショートカット構造」という簡単なキーワードを駆使することで、和文と英文の違いを見事に分析されていたからです。

 それにしても「アップダウン構造」はイメージのわきやすい巧みなネーミングですね。(以上)
下岡 清二  

<昌原から一言> 

 『「日本語論」の先入観で読み始めたのですが、そうではなかったようです。著者の意図は「日本論」のようで、しかも壮大な日本論でした』

 このご指摘は、まことに我が意を得たりであります。
 そうなんです、日本語の分析が、日本精神と日本文化総体の分析にまで広がるということ、これが書名の副題に「日本精神と日本文化のアップダウン構造」と付けた所以です。よくくみ取っていただきました。

 それにしても、下岡さんは根っからの翻訳家ですね。『アップダウン構造』のタイトル一つでこれだけ遊べるのですから。
 若い頃に共に勉強会で精進したことを懐かしく思い出します。この人は当時から清雅なる文章をおかきになるお方でした。

 今、下岡さんの「翻訳オモシロ話ブログ」を作ってくださいとお願いしています。実現したら、翻訳にまつわるオモシロ話などが楽しめそうです。
 下岡さん、その気になって戴けますかしら?