仁(じん)は二つなのに一つ

 「仁」は、「人」と「二」(ふたつ)の合字なのに、「仁」を「ひと」と読むのは何故か?そこに、「仁」にこめられた深い意味があるのです。

1.名は体を表す

 日本語おもしろ話の「【1】一(ひとつ)」 の中で、KAT-TUN の赤西仁(あかにしじん)君のことを書きました。赤西仁君の「仁」について、ここでもう少し深く味わって見ましょう。

1-1. 名詮自性(みょうせんじしょう)を覚えよう

 名詮自性(みょうせんじしょう)という言葉があります。
 名は詮(つまり)、自らの性を表す、という意味です。名は体(たい)を表すとも言いますね。

 「名詮自性」を難しい言葉だと思わないで下さいね。
 ミョーセンジショー、ミョーセンジショー、と五・六回唱えて覚えてしまいましょう。

 今、日本語の四時熟語を学ぶのがブームになっています。
 テレビクイズ番組「ヘキサゴン」で、「おバカ」キャラを発揮しているスザンヌちゃんや、つるの剛士君などの若いタレントさんたちが、クイズに備えて必死で勉強しているとか。

 だから、皆さんも「名詮自性」は、ああ難しい、などと思わないで、ミョーセンジショー、ミョーセンジショー、と唱えて呑みこんでしまうことですね。若い頃は、何でも吸収する力があるのです。

 スザンヌちゃんも上地雄輔君も、吸収するチャンスに巡り会っていたら、どんどん吸収する力は持っていると思います。彼女たちは、決して「おバカ」さんではないはずだと思います。

 このカテゴリー「日本語おもしろ話」の記事は、実は、中学生や高校生の若い皆さんに語りかけるような気持ちで書いているのです。ですから、上記の本当は「おバカ」さんではないタレントさんに語りかけるような気持ちで、わかりやすく書くことにします。
 日本全国のスザンヌちゃんたち、知識と知恵を豊かに蓄えて、立派なレディとおなりなさいませ。

 さて、名詮自性ということばがあるように、名は体を表すのです。
 "名前には、とても大切な意味がある"のです。

 これだけ覚えて戴いて、月へ行きましょう。・・・じゃなかった、次へ行きましょう。

1-2. 仁(じん)は、皇族の諱(いみな)に多用される

 仁は人の名によく用いられます。
 女の子は仁美(ひとみ)、男の子は仁(じん)あるいは仁(ひとし)。
 実は、平安の昔から、男子皇族のお名前にこの「仁」が多用されているのです。

 最近の天皇や皇族方のお名前を列挙しますと。
  - 明治天皇: 陸仁(むつひと)様
  - 大正天皇: 嘉仁(よしひと)様
  - 昭和天皇: 裕仁(ひろひと)様
  - 今上天皇: 明仁(あきひと)様 ←「きんじょうてんのう」と読みます。
  - 皇太子:  徳仁(なるひと)様
  - 秋篠宮:  文仁(ふみひと)様
  - 秋篠若宮: 悠仁(ひさひと)様

 すべて、「仁」(ひと)が付いていますでしょう。
実は、上に挙げたお名前は、諱(いみな)と申しまして、いわば本名に当たるものです。
 イム(齋む、忌む)というのは、避けるという意味があります。
上に挙げたお名前を諱(いみな)と申し上げるのは、軽々しくその諱(いみな)を唱えてはいけませんということです。
 
 そこで、皇族方をお呼びするのに称号(しょうごう)を用います。
 上の例で申し上げると、
– 秋篠宮が、称号、
– 文仁(ふみひと)が、諱(いみな)。

 ですから、私たちから皇族方をお呼びする場合は、諱(いみな)ではなく称号を用いて、
 - 皇太子殿下、
 - 秋篠宮殿下。

とお呼びすればよろしいのです。

 父君、母君であられる天皇陛下や皇后陛下が、徳仁(なるひと)様や文仁(ふみひと)様の諱(いみな)を用いてお呼びになるのは勿論よろしいのですが、これを、私たちがまねをして、諱(いみな)を使って、
 - 徳仁(なるひと)様、
 - 文仁(ふみひと)様、

とお呼びするのは、少しはばかられる所があります。

 しかし、最近は、諱(いみな)に対する配慮がやや薄れて来ておりまして、
 - 皇太子徳仁(なるひと)殿下、
 - 秋篠宮文仁(ふみひと)殿下、

などと新聞などでも書かれていますね。

 まあ、確かに、本当は恐れ多いことではあるのですが、皇后陛下を「美智子様」とお呼びすると、ぐんと親しみが感じられますね。

 ついでに申し上げると、秋篠宮家にお生まれになった悠仁親王様は、秋篠宮家の嫡男(ちゃくなん)であらせられますので、

 - 秋篠若宮(あきしのの)(わかみや)殿下

とお呼び申し上げるのです。

 こういうことも心得ておくと日本人として豊かな心持ちになれますでしょ。
 日本全国のスザンヌちゃんたち、可愛いだけではダメですよ。知性と教養を蓄えて、立派なレディにおなりなさい。

2.仁(じん)は、人と二の合字

 さあ、急いで、話をまとめましょう。

2-1. 仁(じん)を「ひと」と読むのは何故か

 皇族方のお名前に「仁」が多用され、それを日本語で「ひと」とお呼びしている。

 これって、不思議に思いませんか?

 だって、「仁」の字の成り立ちを見てください。
 「仁」とは、人と二(ふたつ)を合わせた字でしょ。

 だったら、
 - 文仁(ふみひと)親王は、ふみフタ親王、
 - 悠仁(ひさひと)親王も、ひさフタ親王、

となって当然じゃないですか?
どうして漢字の「仁」(ふたつ)が、日本語では「ひと」になるのでしょうか?

 実は、ここに「仁」の漢字に込められた意味があるのです。

 わざわざフタツ(二)という字を組み込んでおきながら、それをヒト(一)と読むところがミソですね。

2-2. 「仁」は二つのものを一つと視る

 「仁」には、"二つのものを一つとして視る"という意味が込められているのです。
 例えば、日本国には天皇様がいらっしゃり、国民がいる。
 天皇様は、ご自分と国民とを二つの分離したものとはご覧にならないのです。"ご自分と国民とは一つであるとご覧になる"のです。

 これが、代々の天皇様が伝統的にお持ちになる感覚です。

 それを「一視同仁(いっしどうじん)」と申し上げます。

 国民に対して「一視同仁」の御心をもって対される。
 それが代々の日本国天皇に望まれるあり方であったのです。

 ですから、皇族方の諱(いみな)に「仁(ひと)」が用いられるワケです。

3.仁(じん)は、儒教の最高の徳目

3-1. 仁は五常(仁儀礼智信)の最高徳目

 儒教に、人間が常に守るべき徳目を五つ挙げて、五常(ごじょう)と称しております。
 五常とは、仁・義・礼・智・信 の五つです。
  - 仁(じん):一視同仁の思いやり
  - 義(ぎ): 為すべきことを為す
  - 礼(れい):礼儀礼節
  - 智(ち): 智慧のはたらき
  - 信(しん):信頼すること、されること

 「仁」は、この五常のうち最高の徳目として、尊重されているのです。
 二番目の「義」と合わせた「仁義(じんぎ)」という言葉はよくご存知でしょう。

 ですから、「智」の働きがちょっぴり慎ましやかであっても、他人に対する思いやりの心、一視同仁の心を豊かにお持ちであれば、天地神明もその人を尊びなさるのです。

 頭が良くって賢いよりも、思いやりの深い人が、友達にも好かれますね。

4. 仁を名前に持つ人たち、仁の心を振り起こせ

 皇族の方々は、ご自分の諱(いみな)をご自分の人生目的のように受け止めておられるのでしょう。もう一度、皇族の方々の諱(いみな)を拝見しましょう。

  - 明治天皇: 陸仁(むつひと)様
  - 大正天皇: 嘉仁(よしひと)様
  - 昭和天皇: 裕仁(ひろひと)様
  - 今上天皇: 明仁(あきひと)様 ←「きんじょうてんのう」と読みます。
  - 皇太子:  徳仁(なるひと)様
  - 秋篠宮:  文仁(ふみひと)様
  - 秋篠若宮: 悠仁(ひさひと)様

 こういうお名前に込められた意味が、その人の「人となり」に響きだしてくるのです。

 ですから、KAT-TUN の赤西仁(じん)君も、日本全国の「仁美(ひとみ)」ちゃんや「仁実(ひとみ)ちゃんも、漢字「仁」にこめられた意味をよおーく考えて、その名を付けて下さったご両親に感謝申し上げることですね。
 そして、

  - 仁の意味を振り起こす

ように心掛けて下さい。

 「仁」の字を名前に持つ人たち、「仁」の心を振り起こして下さい。

 そうすれば、仁の名前を持つあなたたちを視て、周りのひとはこうつぶやくでしょう。

 成る程、ナルホド、名詮自性(みょうせんじしょう)!

【参考】「一(ひとつ)」にも深い意味がある → 日本語おもしろ話【1】一(ひとつ)
【参考】 一二三(ひふみ)の根本義 → 【3】ひふみ(一二三)の神秘