(16) 容成グルメ三題(第一話)乏しきを分かち合って裏切られた(?)話

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人生六十年を振り返って、食べ物に関して思い出に残る話が三つあります。
その三つの話に共通するキーワードが、私の名前である「容成」ということです。
「容成グルメ話三題」と称して、それを物語ることにします。
   ▼(第一話) 乏しきを分かち合って親友に裏切られた話
   ▼ (第二話) ウロコ付きの刺身で人生を学んだ話
   ▼ (第三話) ウサギの頬肉を呑み込んで行く先を定めた話

第一話 乏しきを分かち合って親友に裏切られた話

中村屋の月餅

 私の竹馬の友に、龍之介君(仮名)というのがおりまして、同年の生まれで、家が百メートルも離れていない近所の出でした。龍之介君と私は、小学校から中学校、高校まで、同じ学校に通っていました。特に高校時代は、同じラグビー部に所属して、友に汗と涙を流した間柄です。

 私が二年間浪人すると、龍之介君も二年間の浪人生活につきあってくれました。

 その当時の私と龍之介君との合い言葉のようになっていたのが、「乏しきを分かち合う」ということでした。浪人時代の小遣いに窮窮(きゅうきゅう)とする中で、少しの酒が手に入れば、共に「乏しきを分かち合い」、少しの菓子が手に入ればまた、「乏しきを分かち合う」という麗しい生活をしていたのであります。

 ある寒い冬の夜、まもなく日付も変わろうとする頃に、私の部屋に龍之介君が訪れました。中村屋の月餅(げっぺい)が手に入ったので、持参したというのです。有り難いではありませんか。近所とはいえ、この寒空に大の男が月餅(げっぺい)一つ手に持って、「乏しきを分かち合う」ために、私を尋ねてくれたのです。

 龍之介君よ、君こそは、我が友だ、真の友だ、親友だ!


 いつものように私たちはその月餅を二つに割って、分け合いました。私は友の心の有り難さと共に、その月餅を口に入れました。二口、三口と噛みしめますと、オヤ、何だか変な味がするのです。

 おかしいなとは思ったのですが、龍之介君を見ると、彼も月餅を口に入れてモグモグとうまそうに口を動かしているではありませんか。どうもこの味は変だなあと思いつつも、折角の彼の好意を無にすることも出来ず、「乏しきを分かち合い」の精神を尊んで、私はそのかびくさい月餅をゴクンと呑み込んだのです。

 ところが何と、私がゴクンと呑み込んだ正にその瞬間、龍之介君は、口の中のものをペッと吐き出して、こう言ったのです。

 「あっ、これ腐ってるわ」

 オーマイガッド!何という裏切りか。

 君が吐き出したものを、俺は呑み込んだんだぞー!


 龍之介君は、その後、遠く地球の裏側で暮らすことになりました。

 彼は無類の日本酒マニアで、日本酒を語らせると止まることを知りません。
 ところが、世界中でテロ頻発して、飛行機に液体を持ち込むことが非常に難しくなり、日本酒を手に入れるのが、まことに困難になりました。

 そういう訳で、今龍之介君は、地球の裏側で日本酒が呑みたくって呑みたくってうずうずしています。

 これは、遠い昔に食べ物のことで親友を裏切った報いであろうと、私は密かに考えているのです。

 龍之介君よ、参ったか。あはは。

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