【神道08】初詣は先ず産土神社へ参拝を
格別に神祭りなど考えた事もない普通の日本人が、正月ともなれば大挙して初詣に出かけます。日本神道は、日本人の心の奥底に流れ続けているようです。
この初詣、ちょっと考えて下さい。
初詣は先ず産土神社に参拝するのが筋目でありましょう。
1.初詣は先ず産土神社へ参拝すること
初詣(はつもうで)は、先ず何を措(お)いても、産土神社へ参拝なさるのがよろしいでしょう。産土神社をさて措(お)いて他の遠隔地の有名神社や仏閣に初詣に出かけるというのは筋違いです。
また「恵方(えほう)参り」と称して、その年の縁起の良い方位・方角にある神社に参拝するというのも、古伝を尊重しているようでいて、実は人間存在の根本から外れていきます。
恵方(えほう)参りは、産土参拝後になさるとよろしいでしょう。
西洋人から見れば無宗教者と見える日本人ですが、新年ともなりますと、全国民のおよそ75%が初詣に出かけます。(警察庁の平成17年初詣予測による。)
普段は神仏に手を合わせることなど考えもしない人々が、初詣となると、神社仏閣に参拝して手を合わせるのです。それは一面、殊勝な心掛けではあるのですが、産土神社をさておいての遠隔神社の参拝では、筋目が通りませんと申し上げたいのです。
2.産土神と人間の関わり
では、その初詣に、先ず産土神社へ参拝なさいというのはどういうわけか。
そのわけを三点に要約します。
・人間は、父母産土によって生まれる
・人の住む大地は、産土の御肉体である
・家屋敷も産土と関わる
2-1. 人間は、父母産土によって生まれる
先ず第一に、人間という存在は、父と母と産土神の三つの力が結び合って、この世に肉体形成して生まれて来るものであるという真実があります。
よく子どもが両親を選んで生まれてくるといわれますが、その子どもの霊魂の希望も考慮して、その子が人生で学ぶべき事柄も考慮して、最終的に産土の神さまが決断して、子どもの霊魂と両親とが結ばれるのです。(昌原容成・著 親子で学ぶ神道読本(一)父と母と産土の神)
子どもが自分のお父さんお母さんを差し置いて、よそのお父さんお母さんに先ずご挨拶申し上げるとしたら、お父さんお母さんはどうお考えになりますか。
同様に、自分が住んでいる土地の産土の神様をさておいて、よその土地の神様にご挨拶申し上げるというのは、天晴(あっぱ)れなる心がけとは云いかねます。
2-2. 人の住む大地は、産土の肉体である
第二に、人は大地の上に住んでおります。大地があるということを当然のことと思い込んでおります。
この大地、実は産土神の御肉体でございます。
産土神社に神域があり、その神域から遠く離れて家屋敷を構えるとします。
神域から遠く離れていますので、ここはもう、私の土地です、とお考えになりますか。
実は、その屋敷も地表から九尺下はもう産土の神域です。産土神の御肉体です。
地表から上三尺と下三尺は、いわば人間の生活圏であり、家を建てたり、寺を建てたりするのですが、地表から九尺以下は産土の世界です。
人間の肉体そのものが、産土の神力によって形成されている上に、産土神の御肉体に載せられて生活しているのです。
そういう産土の神様をさておいて、よその土地の神様仏様を有り難がって先ず参拝というのは、実は本末転倒です。
たとえ自分の土地の産土神社がどれほど小さなちっぽけな神社と見えましょうとも、その奥には広大な産土神界が厳然として存在し、天地創造神界と直結しているのであります。
遠隔地の有名神社仏閣が、社殿が立派で神域も広大、参拝者も多いから、さぞやご利益も大きいであろうとお考えかも知れませんが、ご自分の産土神社をさておいての参拝では、その思惑も空振りです。
縁のある有名神社に参拝なさるのもよろしいでしょう。ただし、産土参拝を終えてから、そちらに参拝なさればよろしいのです。
2-3. 家屋敷も産土と関わる
第三に、自分の住んでいる家屋敷もまた、産土と密接に関わります。
地表から九尺下は産土神の御肉体と申し上げました。
人は、その上の土地を法律によって所有しております。
例えば、川崎さんという人がある区画の土地を購入して家を建てるとします。
先ず地鎮祭をお仕えして、「この土地に川崎〇〇の家を建てることをお許し下さい」と産土の神にお願い申し上げますと、その区画の土地が、川崎〇〇さんの屋敷の大床主(おおとこぬし)の神に変化(へんげ)なさいます。
産土の神が大床主の神に変化するのです。
2-4. 床の間は大床主の神座
大床主(おおとこぬし)とは、大床という斎場をおまつりなさる斎主(いわいぬし)の神、大床斎主(おおとこいわいぬし)様です。
この、大床という言葉は、聞き慣れない言葉とお思いですか。
いいえ、日本人ならだれでも、大床に関わる言葉を知っているはずです。
大床の間 → 床の間
そうです、床の間です。
日本家屋にある床の間は、大床斎主(おおとこいわいぬし)の神をおまつりするために設けられた空間です。
床の間には書を飾り、花を活けるのみで、別に神棚などを設けなくとも、地鎮祭から落成祭までの諸祭祀を正しくお仕えした家ならば、そこが大床斎主の神座として働くのです。
大床斎主(おおとこいわいぬし)の神が、その大床をおまつりして下さるのです。
その床の間が、日本の家造りから消え去ろうとしているのは、まことに残念です。
ある大きな病院の院長をしている人がいて、家を新築するというのでぜひとも床の間を作りなさいといっておきました。
さて、完成したというので行って見ますと、かなりの邸宅であるのですが、床の間とは名ばかりの、深さ30センチほどの本棚がやっと置ける程度の空間が作られていました。
院長先生の邸宅を訪れて、床の間もどきが有るのみとは・・・。あなたの人間の深さはたかだか30センチですか・・・。
ことほど左様に、床の間が無用の空間と誤解されて、日本の家造りから消え去ろうとしているのです。家造りにまつわる諸祭祀もまたしかりです。
2-5. 新築の祭祀は産土神をお呼びして
例えば、川崎○○さんが家を新築するとします。
地鎮祭に続いて、上棟祭、落成祭をお仕えしますと、川崎〇〇さんの霊魂に響きあう家船(やふね)の神様が霊体形成されまして、その家にふわりと重なります。
そうなると、その家はもう、単なる建築材料の寄せ集めではありません。その家は、川崎〇〇さんの肉体を流れる血の球と響きあって生きていく一個の生命体となるのです。
またその屋敷の大床は、単なる土くれの寄せ集めではありません。
川崎〇〇さんと一緒になって、この世に創造活動(まつり)を繰り広げていく生きものとなるのです。
同様に、隣のお家では、佐藤さんの大床主、佐藤さんの家船の神がいらっしゃるかもしれない。
川崎さんの大床主、佐藤さんの大床主、さらにはその地域の大床主をすべて集めて、その土地の産土の神でございます。
つまり、産土の神は、人間の肉体形成に神力を振るわれるのみならず、家屋敷の大床に変化され、人間をその御肉体に載せて住まわせて下さるのです。
であるが故に、地鎮祭から始まって、上棟祭、落成祭という一連の祭事は、必ず、産土神をお呼びしてお仕えするのです。
これを考えますと、どうですか、ご自分の土地の産土様を差し置いて、遠隔地の有名神社に先ず参拝したいとお考えになりますか。
物見遊山に毛の生えたような参拝はなさらぬことです。
真実、人間の真心を捧げ奉るという初詣をしたいのであれば、先ず、産土神社に参拝なさいませ。その後に、ご縁のある遠隔地の有名神社を参拝なさればよろしいのです。
2-6. 恵方は産土神社を起点にして
さらに中国渡来の陰陽道(おんみょうどう)に「恵方(えほう)参り」ということがございます。恵方(えほう)とは、その年の縁起の良い方角と云われ、恵方とは反対に不吉な方角とされるのが「鬼門」(きもん)です。
「恵方(えほう)参り」とは、その年の恵方の方角にある神社にお参りすると年神から福が与えられると考えられているのです。
「恵方参り」も悪いとは申しません。
しかし、純粋日本神道の立場から申し上げるならば、それも産土参拝の後に心が向けばなさればよろしいのです。
また、「鬼門」を不吉な方角とのみお考えにならないことです。
鬼門とは起門(きもん)であって、良いことも悪いこともそこから起こり始める方角ととらえるとよろしいでしょう。
また、方位方角の力を人生にもたらしたいとお望みであれば、その方位方角はご自分の家を基点にするのではなく、産土神社を基点にすべきであるということも、日垣(ひがき)神道の伝えごとの一つとして書き記しておきます。
3.越年の神儀して産土参拝を
さらにまた、初詣の前に「越年の神儀」というものがあることをわきまえねばなりません。
神律を厳しく調えておられる神社では「越年の神儀」を厳修されます。それが終わって始めて、初詣をお受けになります。除夜の鐘が鳴ったからといってズカズカと押しかけるのは却って神霊に対する無礼となることでしょう。
それぞれの家庭においても、
大掃除をして、
注連縄を飾り、
家船の神、屋敷の神、大床の神をおまつりし、
父なる神、母なる神、祖霊をおまつりし、
日月素三神(日の神、月の神、素盞鳴の神)をおまつりし、
己自身の直日(なおひ)をおまつりして、
その後に産土参拝にでかける
のがよろしいでしょう。
「越年の神儀」については、私の中でもう少し学びごとを重ねましてから、あらためて文章を書かせていただきます。
日本人口の75%が、初詣に出かけるということですが、そのうちどれだけの人が、上に述べたようなことを心得ておられるでしょうか。
初詣は先ず産土神社に参拝する。
これを日本人の常識としなければなりません。
この文章をお読みの読者の皆様は、これをご自分の心にしまいこまずに、先ずご自分の子どもさんに伝え、友人知人に広く伝えて下さいますように。