すみませんのアップダウン構造

 この記事は、過去のメルマガのバックナンバーです。メルマガにおける表現を、そのまま転載していることをご承知おき下さい。
 「アップダウン構造」という魔法のようなキーワードを使って、日本を丸ごと解明してゆくものです。 

1.技術翻訳にはウイスキーが必要だった

 私は20才で翻訳のアルバイトを始めました。
 今年(2007年)で翻訳生活38年になります。

 最初の20年ばかりの間、翻訳の仕事をする際にどうしても手放せない必須アイテムがありました。

 それが、ウイスキーです。
 ウイスキーを飲まないと翻訳ができなかったのです。

 これは私がアル中であるという意味ではありません。
 今は御神酒(おみき)以外はほとんどアルコールを口にしません。

 では、何故ウイスキーが、翻訳作業の必須アイテムであったのか?

 翻訳を一生の仕事にしようと考える人たちは、それなりに文章に対する美意識を持っております。
 私も私なりに文章に対する美意識をもっておりました。

 この美意識が問題なのです。

 文芸ものの翻訳のように、自分の気質に合った原作者の、かなり整った文章を翻訳するのであれば、ウイスキーは要らないと思います。

 しかし、技術翻訳の世界はそうはいきません。

 日本語から英語への技術翻訳の原文となるものは、文芸ものほど完成度が高くないことが多く、時には、技術者が現場で書き散らした手書きメモを訳さなければならない時もあります。

 自分で選んだ仕事とはいえ、ワケのわからない日本語を、何とか英語に仕立て上げるという作業は、とても私の美意識にさわるものでありました。

 ぶっちゃけて言うと、腹が立って仕方がなかったのです。

 日本の超一流企業の技術者たちが書く文章が、私の美意識を逆(さか)撫でするのです。
 その生理的なまでの嫌悪感と腹立ちは、文章修行者なればこそ経験するストレスであったのかも知れません。

 その腹立ちとストレスを治めるために、ウイスキーがどうしても必要であったのです。
 
 ただし、酔っぱらってしまっては仕事ができません。
 酔わない程度にチビリチビリとウイスキーを飲みますと、腹立ちが治まり、文章の美しさなどということは忘れて、ひたすら翻訳マシンになりきって作業することができたのです。

 それが、技術翻訳にウイスキーが必要というわけでした。
 
 ちなみに今は、ウイスキー無しでも翻訳できます。
 それどころか、若い頃にあれほどストレスを感じていた日本文とそれを書いた技術者に感謝の心すらわいてきます。

 若い頃の腹立ちとストレスは、宝物を見つけだす鍵であったのです。
 
 技術者の文章に対する腹立ちとストレスあったが故に、日本語のアップダウン構造を発見することができたのです。

 腹立ちさん、ストレスさん、どうもどうもありがとう。
 目のつけどころが○○○○な会社の技術者さん、本当にどうもありがとう。

2.すみませんのアップダウン構造

2-1. すみませんの2つの意味

 第1号でありがとうのアップダウン構造を解説しました。
 今回は、「すみません」を取り上げます。

 「すみません」が「アイムソーリ」と同じ意味であるということは、小学生でも知っています。
 しかし、これって、本当に同じなんでしょうか。

 すみません イコール アイムソーリ と考えられています。

 しかし、これは違う!イコールではない、と私は思うのです。

 これが本当に同じだったら、ウイスキー呑みながら翻訳する必要もなかったと思います。
 日本語と英語は、ウイスキー呑まなけりゃあ翻訳やってられない程に構造的な違いがあるのです。

 「アイムソーリ」は、わたしは「ソーリ」である、つまり残念である、遺憾に思うということですね。
 これで謝罪の意味を表すのは理解できます。

 一方、「すみません」は済んでないということでしょ。
 まだものごとが決着してないということですね。
 これがどうして謝罪のことばになるのですか?

 「すみません」には、もう一つ不思議なことがあります。

 人が何か良いことをしてくれた時に「すみません」といえば、感謝の言葉になりますね。
 この場合には、「すみません」とは「サンキュー」のことであると言えるでしょう。

 「すみません」は

一方では謝罪の意味で 「アイムソーリ」となり、
他方では感謝の意味  「サンキュー」 となります。

 つまり「すみません」は、「アイムソーリ」と「サンキュー」の両方の意味を兼ね備えているのです。

 では、まだ済んでいない、決着していないということが、どうして謝罪と感謝の意味になるのでしょうか。

 日本人は一体何を考えてどういうワケで「すみません」を使っているのでしょうか。

 これって不思議でしょ。
 外人さんが突き詰めて考えたらワケがわからんと思います。

2-2. 読者の皆さんにビッグプレゼント

 そこで、読者の皆さんにビッグプレゼントを差し上げます。
 次の一文がそのプレゼントです。

日本のことが不思議に思えたら、アップダウン構造を調べてください。

 上の一文は、とても大きなプレゼントですよ。
 しっかりと覚えておいてください。

 アップダウン構造を調べて見たら、日本の不思議はたいてい解決が付きます。
 だから、アップダウン構造は魔法のキーワードだと言ってるんです。

 では、「すみません」の不思議をアップダウン構造で解き明かしましょう。

2-3.「すみません」=「アイムソーリ」の場合

 
 道を歩いていて、肩がぶつかったら「すみません」と謝ります。

 これを英語に直訳してもだめですよ。
 外人さんにぶつかって、

“Not finished.”(済んでいない)

などと言ってみなさい。
 右肩ぶつけたから、今度は左肩をぶつけてやる、と因縁をつけられたと勘違いされますよ。

 アップダウン構造の言葉は直訳不可能です。

 日本人の心は、アップしてダウンするのです。
 隠れた世界にアップして、この世にダウンして戻るのです。
 本源の世界にアップして、現象の世界にダウンして戻るのです。

 済みませんという心をもってアップする世界には、因果律というものがあるのです。それを、日本人は意識せずして了解しているのです。

 因果律とは、良いことをすれば、それが因となって、よい果(結果)が生じるという法則です。
 日本人は心の中で、この因果律を認めているのです。

 「私」が「あなた」に対して及ぼした、肩がぶつかるという小さな出来事であっても、謝るだけで済んだとは思いません、アップして因果律を認め、その因果律がダウンして「私」と「あなた」に適用されます。

 つまり、将来何らかのかたちで「私」は「あなた」に借りを返します。

 これが「済みません」の謝罪の心です。

2-4. 「すみません」=「サンキュー」の場合

 「あなた」が「私」に無理をしてお金を貸してくれたとします。

 「もう、これっきりだよ」と言われて、「すみませんねえ」と答えれば立派に感謝の心を表すことができます。
 これも直訳は絶対だめです。

 「これっきりだよ」と言われて、

”Not finished.”(これで済ませるもんですか。)

と答えたらどうなりますか。「いい加減にしてくれ」と愛想を尽かされますね。

 無理をしてお金を工面してくれた「あなた」の好意に対して、これで済んだとは思っていません。
 アップして因果律を認め、その因果律がダウンして「私」と「あなた」に適用され、「私」は必ず「あなた」に恩返しをさせて戴きます。

 これが「すみません」の感謝の心です。

   「すみません」のアップダウン構造の図

          (因果律)・・・・・見えない世界

           ↓ ↑
  見える世界へ  ↓   ↑   見えない世界へ
  ダウンする  ↓     ↑    アップして
        ↓       ↑
       ↓         ↑

     (あなた)      (私)

3.編集余録 

3-1. 船井事務所の出口さゆりさん

 船井事務所の出口さゆりさんが、船井幸雄氏との対談で、拙著『日本語は神である』を紹介して下さいました。
(出口さんは、出口王仁三郎師のひ孫さんだそうです。)
 ご一読を → 拙著紹介

3-2. 拙著の書評

 拙著の書評をメルマガに書いて下さった人があります。
 セルフ・プロモーションの森和明さんです。

 時として、書評者は著者以上にうまく著書の全体を伝えてくれるもの
ですが、森さんの書評も簡潔にして要を得た文章であると感心しました。
 ご一読ください。 
 森さんの書評メルマガ
 【マスコミが伝えていない勇気と希望☆4つの知】
 (拙著の書評は、Vol.11 (2003/09/23)にあります)

3-3. 千葉県で講演の予定

 2004年9月20日(月、祝日)に千葉県で講演の予定があります。
 参加希望の方はお尋ね下さい。

【トランスペースの本(神・電子)】
「アップダウン構造」というキーワードを知れば、眼からウロコがぼろぼろ落ちて、あなたの中で言霊の力が爆発するでしょう。
『日本語は神である』 (アップダウン構造により日本語・日本文化を解明する書)