龍とドラゴン (Dragon)・日本語と英語はこんなに違う

 「英語おもしろ話」の初めの記事ですので、龍とドラゴンの違いを説明しつつ、英語を学ぶ際にとても大事なことを述べることにします。
それは、英語と日本語のうわべだけをつきあわせても駄目だということです。

1.龍とドラゴンは同じか?

西洋のドラゴンは退治すべき存在 龍とドラゴンは同じか、と問われたら、違うと答えざるを得ません。
 和英辞書で「龍」(竜)を引いてみると、「dragon」と出ます。英和辞書で、「dragon」を引いてみると、「龍」(竜)と出ます。

 つまり、龍(竜)とは、Dragon(ドラゴン)である・・・・。

 おっと、待ってください。
 龍(竜)イコールDragon(ドラゴン)とは言いかねます。

 えっ、辞書に載ってるから、龍(竜)イコールDragon(ドラゴン)として間違いないですって?
 いいえ、違います。龍(竜)とDragon(ドラゴン)とは、全く別物です。

 まあ、落ち着いて、私の話を聞いてください。それを証明してみせましょう。

2.東洋の「龍」は尊ぶべき存在

東洋の龍は尊い存在
 日本人にとって、「龍」は、しばしば「龍神」様として、民話などに現れます。「龍神」様は、雨をもたらして農耕の実りを豊かにしてくださる、有り難い存在ですね。

 日本語の龍は尊い存在です。

 神社の手水舎(てみずや)には、よく龍の彫り物があり、その口から清水が流れて参ります。
 龍神さんから戴いた清水で手を清めるのです。

 国語辞典で「龍」を調べると、「縁起のよい動物。天子や豪傑にたとえる」とあります。「龍顔」(りゅうがん)」とは、天子様のお顔のことですね。

 中国でも、龍は大いに尊ばれています。
 黄河の上流に龍門という急流があり、鯉がその龍門を登り切ると、龍になるという伝説がありました。
 その伝説から、通り抜ければ立身出世ができる関門のことを登龍門(とうりゅうもん)と呼ぶようになりました。

 龍になるということは、とても素晴らしいことであるのです。

 ブルースリーの映画に『燃えよドラゴン』というのがありました。
 ドラゴンという英語を使ってはいるのですが、東洋人ブルースリーにとってのドラゴンは、これまで説明したような意味での「龍」であったはずです。
 
 東洋人にとって「龍」は神様の部類にもはいる尊ぶべき存在なのです。

3.欧米の「Dragon」は退治すべき存在

 東洋人の龍に対する尊敬の念とは逆に、西洋人にとっては、Dragon はまことにやっかいなる存在なのです。

人間の見方をするドラゴンも映画や物語で時々見受けられます。
 映画「ドラゴンハート」では、騎士とドラゴンのコンビが悪政と戦う姿を描いております。
 「ネバー エンディング ストーリー」では、主人公を助けるドラゴンが出て参ります。

 この点だけを見ると、西洋人のドラゴン観も、東洋人と変わるところはないと思うかも知れません。

 しかし、やっぱり、違うんです、西洋人のドラゴン観は。

 そもそも、西洋キリスト教世界の精神的バックボーンである聖書「黙示録」に、天使たちがドラゴンと戦ったという記述があります。
英語のドラゴンは、概して邪悪な存在なのです。

 一般に、西洋では、ドラゴンとは退治すべき悪意ある存在なのです。
 英国人にそのことを尋ねてみたところ、面白い応えがかえって来ました。
 英国では、口うるさい姑(しゅうとめ)のことをドラゴンのようだとたとえるのです。
 西洋のドラゴンは、口から火を吐きますので、口からきつい言葉をはき出すお姑さんをドラゴンにたとえるのです。
 ドラゴンは、決してよいイメージではありませんね。
 これは3人の英国人に確かめて裏を取ってあります。

 また、英語世界でもっとも権威ある類語辞典(シソーラス)である"Roget’s International Thesaurus" には、もっとすごいことが書いてありました。

 "violent person “(乱暴者)の類語として、

   beast (けだもの)
   mad dog (狂犬)
   wolf (オオカミ)
   monster(化け物)
   savage (野蛮人)
   rapist (レイピスト、強姦者)

などの言葉が並んでいますが、その中に

   dragon (ドラゴン)

も入っているのです。信じられない! でも事実です。

 ドラゴン(dragon)が、女性の敵レイピスト(強姦者)やオオカミ、狂犬、化け物と同じ扱いをされているのですよ。
 このドラゴンのどこに、龍神様の面影があるでしょうか。
 このドラゴンのどこに、龍顔や登龍門に込められた東洋人の心がみとめられるでしょうか。

 神社の手水舎(てみずや)で口から清水を流して下さる龍神さんが、このシソーラスをご覧になったら、卒倒してしまうかも知れませんね。

 東洋人ブルースリーが、映画『燃えよドラゴン』を制作して、自分をドラゴンにたとえたのは、レイピストやオオカミと同列に置いてのことではないはずですね。

 これほど、東洋人と西洋人とでは、龍(ドラゴン)の一語をとってもこれだけの違いがあるのです。

4.日本語と英語の違いを認めておツキアイ

 このように、龍(竜)とドラゴンとは、全く別物であると捉え直さなければなりません。

 日本語と英語の違いというものは、単なる表面的な言葉のすり替えだけでは決して通じ合うことのできない、「構造的」な違いがあるのです。
 日本語の一語一語には、大和(やまと)民族の心が込められており、英語の一語一語には、英語民族の心が込められています。

 その民族の心が、甚だ対照的であることがよくあるのです。

 それだけに、翻訳は面白い。
 それだけに、異文化交流は面白い。

 このカテゴリー「英語おもしろ話」では、日本語と英語の違いを認めて承知して、民族の心と心を突き合わせて、その違いを楽しんで行きたいと思います。

 これが本当のおツキアイと申せましょう。あはは。

【参考】日本語「一(ひとつ)」には深い意味がある → 日本語おもしろ話【1】一(ひとつ)創造の火を点す