(3) 文月は七夕、織姫と彦星の星祭り

1.七夕(しちせき)は五節句の一つ

七夕の笹に短冊を付けて
 七月を文月(ふみつき)という。
 七月七日の夕べに笹竹を立て、和歌や祈願の文(ふみ)を記した短冊を垂らして七夕(たなばた)の星に捧げるという習わしがある。
 七夕は元来、「しちせき」と発音し、人日(ジンジツ)(一月七日)、上巳(ジヨウシ)(三月三日)、端午(タンゴ)(五月五日)、重陽(チヨウヨウ)(九月九日)、とともに五節句の一つである。

2.七夕を「たなばた」と称するのは

 中国古来の伝説に、牽牛と織女の物語がある。
 天帝の怒りを買って、天の川の両側に分けられた牽牛と織女が、一年に一度、七月七日の夕べ、鵲(かささぎ)が羽根を広げて渡した橋を通って相まみえるを許されるとか。
 日本では、牽牛を彦星とし、織女を織姫(おりひめ)と呼ぶ。
 この織姫が機(はた)を織るのだが、日本古来の機(はた)には棚(たな)が付いていた。つまり、棚機(たなばた)である。
 ここから七夕が「たなばた」と称されるようになったと云われる。

3.星と人間の運命の関わり

 織姫が織りなす布には、全天の星の力が織り込まれてゆく。
 星の力、星の動き、それが人間の運命と関わりを持っている。
 神仙の世界に、星と人間の運命との関わりを研究する仙人たちがいて、その研究が人間界にもたらされて様々な占星術、星占いとして伝えられている。

 因(ちな)みに、易は龍神界からこの世にもたらされたものである。
 上古に易の八卦を画した伏犠(ふっき)が、蛇体人面であったと伝えられ、易の文章に乾龍(けんりゅう)坤龍(こんりゅう)等の龍に仮託した表現が多いのも頷ける。

 話を星戻す。いかなる星の下に生まれたのかという表現を以て、いかなる運命の下に生まれたのかを表すこともある。
 このように、星と人間の運命とは深い関わりを持っている。

4.星は霊源(霊魂の発生源)と関わる

 古今東西の聖者方は、それぞれに、星と人間とのつながりを説かれた。
 
 曰く、星と人間とは、目に見えぬ霊線でつながっていると。
 また曰く、天空の巨星落つるを見て、巨人の死去を知ると。
 日垣宮主師によれば、星はまた、霊源(霊魂の発生源)とも関わりを持つ。
 人間のみならず、一つの山、一本の樹木の霊源が星の世界に置かれていることがある。
 一山、一木が、星の光を浴びて霊源のエネルギーを充填してゆく様を想っていただきたい。
 人間もお山さんや樹木さんに負けてはいられない。
 せめて七夕の短冊に文を記して星空に捧げ、己の霊源に思いを致してそのエネルギーを身中(みぬち)に戴いてはいかがであろうか。
 様々なる願いの中で、「私の霊源の力を私の中に豊かに満たしてください」という願いが、まずは根本であろうと想われる。

5.水無月から文月へ

 六月水無月の大祓えは、水の力で一切を虚空界に返す月と述べた。
(「【2】水無月にナの言霊の力を想う参照。)
 その虚空界から、次の文月が生まれてくる。
 人に人柄があるように、一年に年柄(としがら)があり、各月に月柄(つきがら)がある。
 文月の月柄は、七夕に象徴される。織姫様が霊魂新生の布を織り上げてくださるのである。
 
 文月に織姫が新生の運命を織りなして下さるその動きに人間が乗るならば、人間の人柄が現れ、霊魂の真実相が現れる。
 かく受け止めるならば、七夕に文を捧げて星祭りするという日本人の習わしが、一層の光輝を放つことであろう。

6.日本人よ、祭祀民族たれ

 日本人の伝える習わしの一つ一つに、祭祀民族としての面目が籠められている。
 天文学的には、織姫は琴座のベガ、彦星は鷲座のアルタイルという星であり、白鳥座のデネブとともに「夏の大三角形」を形成する。
 都会に住んでいると、星空を眺める機会が少なくなりがちだが、「夏の大三角形」は見つけやすい。
 星座を案内してくれる書籍も多数ある。
 それらを参考にして、織姫と彦星を探してみては如何であろうか。
 都会であっても空気の澄んでいる深夜には、織姫と彦星の間を流れる天の川をかすかに認めることが出来る。
 星と心を通わせ、月と心を通わせ、太陽と心を通わせて生きる。
 それこそが、祭祀民族たる大和(やまと)民族の生き方であろう。
 
 日本人よ、祭祀民族たれ! 

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